利益が安定している成熟企業は60%でも80%でも配当をすればよい。

投資機会に恵まれた成長盛りの企業の場合、株主還元で現金を株主に返すよりは、資金を会社に留保し、事業に投資した方が株主価値を創出することになる。
株価の上昇に努めてキャピタルゲインで株主に報いるべきだろう。
例えば00年創業の医療情報サービスのエムスリーは、07年の東証1部上場後に配当を始め、20%の配当性向を維持してい るが、最近5年間の売上高成長率は約30%と高い。
このような会社は株主還元にさほど注力する必要はないと考えられる。
マイクロソフトは02年まで無配だったし、米アップルもスティーブ・ジョブズ最高経営責任者でいた間は配当も自社株買いもしていない。
フェイスブックや米アマゾン・ドット・コムは現在も無配である。
逆に、企業が成熟段階に入って成長のための投資機会が減り、現金が余るようになれば、会社の中にためこまず積極的に株主還元をすべきなのだ。
以上のような金融理論と現実を加味した上で、企業は株主還元をどう使いこなせばよいのだろうか。
まず、若い成長企業は株主還元に重きを置く必要はない。
一方、収益力のある成熟企業は、多少の利益の変動があっ ても当期利益で賄える範囲で、できる限り配当増による株主還元をした方がよい。
配当の方が株価へのインパクトが大きいためだ。
NTTや日本たばこ産業はここ数年、配当を大幅に増やし、株価も堅調だ。
日本企業全体の配当性向は30%を超えてきたが、利益が安定している成熟企業は60%でも80%でも配当をすればよい。
自社株買いは年度ごとに増減させても株価への悪影響はないため、株主還元の手法として配当よりも柔軟性がある。